●ケーブルテレビ会社の苦しい台所事情
そもそもケーブルテレビの経営は、ケーブル敷設などにかかわる初期投資が膨大にかかる一方で、それを賄い得るような規模まで加入者が伸びるのに相当の時間と労力を要することから、総じて順調とは言えません。
2000年度の実績を見ても、317事業者のうち、単年度黒字となっているのは201、累積で黒字に達しているのは84という状況です。
デジタル化への投資は一局当り約10億円といわれますが、ケーブルテレビ会社の平均年商は5億5000万円で、年商の2倍近い投資が必要になります。
●デジタル化にともなう投資負担に苦しむローカル局
ケーブルテレビ局がテレビ放送を受信して、ケーブルを介して各家庭に届けることを再送信といいますが、テレビ局ごとに流してよいか同意が必要になります。
これまでテレビ局側が同意するにあたっては「放送の品質を損なわないように」との条件がありました。BSデジタル放送は高画質のデジタルハイビジョンとデータ放送が売り物ですが、この2つをケーブルテレビで楽しむには、ケーブルテレビ側でも設備をデジタル化して、デジタル信号のまま送信しなければなりません。
アナログのケーブルテレビも多チャンネルを売り物にしてきましたが、その規模は30〜40チャンネル程度。CSデジタル放送の200を超える各チャンネルからの売り込み攻勢を受けた結果、現在のところはそれなりに十分に視聴者を満足させることに成功しています。
そこに来て、地上波とどの程度差別化が図られているが分からない各キー局のBSデジタル放送を再送信しろと言われても、膨大なコストがかかるうえに、選りすぐりに選び抜いたCSチャンネルをラインアップから外さなくてはならなくなってしまいます。
●関西で火の手が上がったCATVの「区域外再送信」問題
地上波放送のデジタル化を機に、民放連はCATVによる区域外再送信を禁じる方針を打ち出していた。しかし、早くも業界最大手J-COM系列のJ-COM関西が区域外再送信を開始、物議を醸している。この問題はいずれ関東など日本全国に飛び火していくことが必至だ。
区域外再送信とは?
有線テレビジョン放送法によると、CATVが地上波放送などを同時再送信するためには、「放送局側の同意を得ることが必要」と定められている。
地上波民放の放送免許は原則として“県域単位”で付与される。この地上波民放の放送免許エリア内での再送信については、難視聴解消という意味合いが強いことから、放送局側の同意も得られやすいとされる。実際、放送局とCATV局が協力し合って、NHKと同様の「あまねく普及」を民放が実現してきたことは、紛れもない事実だ。
そうした「区域内再送信」とは別に、CATV局による「区域外再送信」というビジネスがある。区域外再送信が行われる理由は、県によって民放局の数が異なることと、そもそも電波は県境などで止まらないという事情による。
例えば、A県には4系統の民放局があり、隣のB県には3系統の民放局しかないとする。B県にはない系統の放送局の電波も、場所によってはB県内で受けられることがありえる。そこでB県内にあるCATV局が、B県内には本来ない系統の放送局の電波を両県の県境辺りで受けて、B県内で再送信するのが区域外再送信である。
B県に住む人たちは、そのCATV局のサービスを受けることによって、A県に住む人たちと同じく4系統の放送が見られることになるため、CATVにとっては有望なビジネスになりえるわけだ。
ただ、その場合でも、放送局からの同意は不可欠となっている。この同意は、A県からB県に持ち込まれる放送局の同意だけでなく、持ち込まれる側のB県の放送局の同意の両方が必要だ。そして、こうしたケースで得にくいのは、持ち込まれる側のB県内にある放送局の同意の方とされる。
その理由は、CATVによる再送信も視聴率にカウントされることになっているためだ。B県内では本来3局による視聴率競争が行われるはずであったのに、CATV局の「区域外再送信」によって、事実上4局による競争になってしまうからである。
これはアナログ放送時代から、CATVと放送局との間でトラブルの種になってきた問題だ。隣県の放送局の放送がCATVで流される際の視聴率は「その他」の扱いとなるが、全日でこの「その他」が10%近くを占めるケースも多々見られ、地元の放送局にとっては見過ごせない状況になっていたのである。
そうした経緯もあって、民放連(日本民間放送連盟)では、地上波放送のデジタル化を機に、CATVに対して区域外再送信を全面的に認めない方針を打ち出した。
ところが、こうした民放連の方針に反し、早くも区域外再送信を行うCATV局が登場してきた。地上波放送のデジタル化は関東・中部・近畿の一部で始まったばかりで、開始から半年も経っていないにも関わらず、である。焦点になっているのは、関西だ。
近畿地区では民放5局のうち、テレビ大阪の放送エリアが大阪府内に限られている。テレビ大阪以外の4局の中には、テレビ大阪の放送が兵庫県で区域外再送信されるのに同意しない局がある。それを受けて、西宮、尼崎、伊丹各市の7万世帯が加入する阪神シティケーブルは現在、アナログ波のテレビ大阪の番組は配信しているが、デジタル波については見合わせている。
ところが国内最大手のジュピターテレコム(J-COM)のグループ会社であるジェイコム関西(J-COM関西)が、4月上旬から神戸、芦屋、宝塚、川西、猪名川の四市一町において、テレビ大阪のデジタル配信に踏み切った。地上波デジタル放送についての区域外再送信の第一号である。
J-COM関西がなぜこうした蛮勇に踏み切ったのか。その理由としては、「アナログならいいのに、デジタルだとダメなのはなぜか?」という加入者の問いに、説明のしようがなかったからだと伝えられている。
既成事実化によるルール化の危険?
今回の件が注目される点の一つに、区域外再送信のあり方について、CATV側と放送局側で条件交渉などが続けられており、いまだその決着を見ないうちに、国内最大手のJ-COMがいきなり区域外再送信に踏み切ってしまったことがある。
「加入者に対する説明」という問題は他のCATVも等しく抱えていることであり、決してJ-COMのみに限られた問題ではない。地上波デジタル放送は始まったばかりであり、それほど結論を急ぐ必要があったとも思えない。
もっとも、J-COM関西の現実の配信スタンスを見ると、そもそも「区域外」ではあるが、テレビ大阪の電波が屋根の上のアンテナで受けられる地域に限って配信を行っており、電波受信ができない地域では、「配信しない」という形をとっている。
それをもって、CATV側の「自主規制」であり、アナログ波の場合のような野放図な再送信に歯止めがかかったと評価する向きもあるようだ。このため、結果として、J-COM基準からすると「自制」エリアに該当する地域のCATVは、(逆に)今回のJ-COMの一件が、デジタル波の配信を阻止される根拠ともなりかねず、大変な危機感を抱いていると言われている。
近畿圏においては、テレビ大阪の大阪府域免許、サンテレビの兵庫県域をどのように取り扱うかで議論が分かれている。プロ野球の阪神戦というキラーコンテンツを持つサンテレビも、今年12月にはデジタル放送を開始することになっているからだ。その場合、今回のJ-COM関西が行った「自主規制」が既成事実化され、CATV業界におけるデジタル放送の区域外再配信における一種の「ルール」として適用されることになるのだろうか?
CATVの加入者の立場から考えると、今回のJ-COM関西の対応は一見、相応の説得力のある対応であるようにも見える。だが、国内最大手のCATVグループの一社であるからと言って、その判断が業界全体の「自主規制」と受け止められ、さらにはそれが既成事実としてルール化されるとなれば、それはやはりいかがなものだろうか。
さらに“そもそも論”に立ち返って考えると、地上波民放はデジタル化を機に区域外再送信を禁じるのと同時に、「対価性を持たせない」という方針を打ち出していたはずである。後者はいわば、タダで見られる地上波放送を「有料で見せてはいけない」というものだ。
この点についてCATV側ではタダの民放を配信することによって収益を上げているわけではなく、あくまでも「設備利用料を加入者から受け取っている」という言い分を貫いている。であるならば、電波受信が可能な地域と電波受信が不可能な地域の両方でサービス展開しているCATVは、(無料の)地上波デジタル放送の配信の有無を、電波受信可能なエリアかどうかによって切り分けることは理屈が成り立たない。
エリアによって設備利用料の中身が変わることはないはずである以上、電波受信エリアかどうかは、加入者にとって無関係だからだ。そもそも電波受信をしないでテレビ放送を視聴できることが、CATVの存在理由のはず。電波受信の可否を根拠にデジタル放送の配信の有無を加入者に納得させるのは、無理があるのではなかろうか。
この区域外再送信の問題は、近畿圏だけでなく、いずれ全国的な問題へと間違いなく広がっていく。現段階での関西の1社の行った判断を、既成事実化させて業界の自主規制ルールとして認めてしまうようなことはせず、民放連とCATV連盟の間で十分な議論を尽くすのが、やはり本筋というべきだろう。
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